荒川弘憲 Arakawa Koken
1993年 韓国生まれ、五つより東京で育つ。千葉県松戸市在住
東京芸術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻博士後期課程在籍中
Born in Seoul, Korea in 1993, and raised in Tokyo from 1998. Currently enrolled in the Doctoral program for Intermedia Art at Tokyo University of the Arts.
Artist’s Statement
20代半ばまで鼻がつまって苦しいから、よく世界を眺めていた。目で見ているもの以外にも、眺めのなかには多くのものが交じり合っていて、その底がみえない深さと、そこで移ろっていくものの早さや遅さは魅力的だった。その眺めの厚みは自分の身体が生み出しているのも気がついていった。たとえば水中で長いこと息を止めて水底をみつめていると、内臓がうごいて水底が複雑な印象を帯びていく。
新しいメディアが発展し、私たちの世界を次々に変えていく。そうしたユニークな時代に私たちは生きている。私たちは否応なしに変化をつづけるメディア環境に沈めさせられる。
その環境と私たちはどのような緊張関係を持てばいいのだろうか。私や私たちが生きるのに耐えられる世界を残していくにはどうしたらいいのだろうか。
あの水底で内臓感覚とともに見た、無意味そうで複雑な眺めのなかにその問いに答える糸口がある。私たちによって、意味づけされ境目を設けることで世界がつくられるのだから、複雑な眺めのなかには、別様の世界の可能性も眠っているはずだ。
内臓感覚とメディア環境のアレンジメントの探究として芸術活動と研究を行っている。視聴覚技術を利用した映像作品の制作や研究に大きな時間を割り当てているが、絵画や立体などの表現形式もとることがある。この探究のためには表現の形式はそこまで重要ではないのだが、映像表現には時間のなかで複雑な情報の変化を表現できるため、内臓感覚が生み出しているものを感覚することを可能にする。またコンピュータグラフィクスが表現する世界に関心がないわけではないが、この星の重力や生態系や文明が織りなす世界のなかで、印象深い眺めの経験を光学的にうつしとることの意味深さから、なるべくCGやエフェクトを用いない方向の映像作品制作を行なっている。
《Jamscape Breath》(2023)という10分06秒の作品では、凪の水面の近くで呼吸を行うことで波紋や泡を生じさせ、水面に映り込む世界が移ろう眺めを映像にした。その映像を薄暗い空間にプロジェクションし呼吸のサウンドが強調された映像インスタレーションとすることで、観者の呼吸との交流とともに鑑賞する作品となった。
《Jamscape Dropping Car》(2024)という6分54秒の作品では、《養老天命反転地》まで向かう436kmのドライブを記録し、重力加速度を参照にして早回しにした映像を床面に投影し、5.1chの空間的なサウンド環境を構築することで、観者に落下しているような内臓感覚を誘う作品となった。
映像表現を用いて内臓感覚を通ることで、私たちはいつもの世界を溶かし、また別の読みかたでうごめく世界と交流することになる。
Chronic nasal congestion in my youth led me to closely observe the world. I was captivated by the unseen layers within each view, their unfathomable depths, and the contrasting rhythms of change. I realized this richness stemmed from my own body; for instance, holding my breath underwater transformed the seabed into a complex tapestry through my visceral sensations.
We live in a unique era, where new media constantly reshape our world. We are inevitably immersed in an ever-evolving media environment. How should we navigate this tense relationship? How can we preserve a world worth living in?
The answer lies in those seemingly meaningless yet intricate underwater views, experienced through my visceral senses. Since we construct the world through assigned meanings and boundaries, these complex views must contain the seeds of alternative realities.
My artistic practice and research explore the arrangement of visceral sensations and media environments. Primarily focusing on video, I also explore other mediums. While the format is not crucial, video’s ability to express complex changes over time makes it ideal for capturing visceral sensations.
Although interested in computer graphics, I am more drawn to the profound meaning found in optically capturing striking views within the context of this planet’s gravity, ecosystem, and civilization. Therefore, I strive to minimize CG and effects in my video works.
“Jamscape Breath” (2023, 10:06 min) films the shifting reflections on a calm water surface, disturbed by ripples and bubbles from my breathing. Projected in a dimly lit space with amplified breathing sounds, it invites viewers to engage through their own respiration.
“Jamscape Dropping Car” (2024, 6:54 min) documents a 436km drive to Yoro Park. The footage is sped up based on gravitational acceleration and projected onto the floor, accompanied by a 5.1ch spatial sound environment, inducing a visceral sensation of falling in the viewer.
By engaging with visceral sensations through video, we can dissolve our familiar world and interact with an alternative, dynamic reality.
主な展覧会歴
- 「さいたま国際芸術祭2023」、旧市民会館おおみや、埼玉(2023_10)
- 「Single Channel Video Show」、Room_412、東京(2022_09)
- 「無頭人と駝鳥人」、BUoY、東京(2022_04)
- 「Jamscape Insectcage」、Room_412、東京(2021_07)
- 「透視ライド」、藤代駅/取手駅ステーションギャラリー、茨城(2021_03)
- 「バトルフィールド2」、Room_412、東京(2020_01)
- 「Comite colbert award」、東京藝術大学大学美術館、東京(2019_11)
- 「バトルフィールド」、Room_412、東京(2019_07)
- 「Standing Rods」、牛久沼、茨城(2018_11)
受賞/助成
- 令和5年度いであ環境・文化財団奨学金受給(2023)
- 東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト(2022)
- 公益財団法人戸部眞紀財団奨学金受給(2022)
- 日本文化藝術奨学金(2021)
- 東京藝術大学卒業制作 買上賞(2021)
- 公益財団法人戸部眞紀財団奨学金受給(2021)
- 国際瀧冨士美術賞優秀賞(2020)
- 宮田亮平奨学金(2019)
所蔵
- 2021 東京藝術大学大学美術館「Jamscape Insectcage」